C.サイフェ 『異端の数ゼロ――数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念』

「どんな数でもゼロを掛けると、答えはゼロである」 学校ではそう習った。そういうものとして。けれども、どうしてそうなるのだろう? 

プログラミングでは「ゼロ除算」への注意書きをよく見かける。たしかに危険な香りがする。だけど、なぜゼロで割ってはいけないのだろう?

本書はそんな不思議な数字「ゼロ」についての物語。

前半(第4章まで)は、数学というよりも哲学の話。「ゼロ」を受け入れたインド。それに対して、「ゼロ」や「無限大」を忌み嫌ったアリストテレス。彼の哲学を取り入れた中世キリスト教神学(トマスアクィナスによって頂点に達する)もまた「ゼロ」や「無限大」を否定した。「ゼロ」を認めることはアリストテレス哲学を、ひいてはそれに基づく天動説を、神の存在の証明を否定することになるから。

一方、後半は数学や物理学の話。ニュートンライプニッツによる微積の発明、複素平面リーマン球相対性理論量子理論ひも理論ビッグバン… 文系人間には辛いし、説明もやや簡略に過ぎる感がある。とくに、ひも理論以降は抽象的な説明が多いように感じた。

文体はいかにも海外の本だなと思わせるやわらかさ。エピソード重視というのも「読み物」らしくていい。例えば、ピュタゴラスの異常さとか、パスカルが確率に基づき神を信じる方がいいと言ったとか、ルターが便秘だったとか。

前提知識は要らないけれども、いずれかの領域(哲学、キリスト教、数学、物理学、天文学)を他の本でかじっておいた方が読みやすいと思う。

異端の数ゼロ―数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念

異端の数ゼロ―数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念