久米郁男 『原因を推論する』

「起承転結でレポートを書いてはならない」 ― 中国政治の先生はそう厳しい口調で言った。「レポートを書くときは、帰納法演繹法でなければならない」

本書は政治学の方法論について、とくに因果関係(「原因=独立変数」と「結果=従属変数」)に重点を置いて論じた本である。著者が政治学者であるため、政治学に特化したネタも多いが、方法論自体は社会科学全般に通じる普遍的なものである。そのため、政治学以外の社会科学(経済学や社会学など)を専攻している人が読んでも、十分理解できる内容であろう。

高根正昭やキング=コヘイン=ヴァーバが方法論について述べた著作を踏まえつつ、著者は数々の事例を題材に、どういった点に気をつけて研究すべきかを論じていく。計量分析を専門とする著者らしく、とくに統計データを用いた分析については、かなり詳しく論じられている。

といっても、随所に「詳しくは統計学の参考書で学んでほしいが」という表現が表れるように、本書を読んだからといってすぐに現実の分析ができるようになるわけではない。むしろ、著者の意図は、実際に分析しようとする前に知っておくべき事柄を伝えることにあるのだろう。

そのせいだろう。本書は教科書的でありつつも、どこかエッセーのようである。実際、著者の講義を受けたことのある人ならば、その機知に富んだ話し方を文章から思い出すこともできる。そういう意味では、ある程度、社会科学を勉強した人があらためて方法論を学ぼうとする際に、最初に読むと便利な本であろう。

最後に、個人的には、縦書きよりも横書きのほうが読みやすかったのではないかと思う。統計データを駆使するという本書の性質上、文中に数字が多く出てくるのだが、縦書きの漢数字では読みにくく感じるからである。

 

 

原因を推論する -- 政治分析方法論のすゝめ

原因を推論する -- 政治分析方法論のすゝめ

 

 

 

創造の方法学 (講談社現代新書 553)

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社会科学のリサーチ・デザイン―定性的研究における科学的推論

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